ケニアのスタートアップ失敗事例から学ぶ投資戦略の再考(2025年4月15日)
1.はじめに
2025年3月、ケニアのBNPL(後払い)型フィンテックスタートアップ「Lipa Later」が事実上の破綻に追い込まれたとの報道が出ました。アフリカでは、昨年7月にもCopia Globalが清算に追い込まれるなど、スタートアップが破綻する事例が続いています。アフリカのスタートアップに何が起きているのでしょうか。本レポートでは、現地スタートアップ・コミュニティでの議論も踏まえ、Lipa Laterを含むアフリカのスタートアップの破綻事例を分析し、投資家が今後とるべき戦略について考察します。
2.Lipa Laterの破綻理由
2018年に創業したLipa Laterは、信用スコアリングを基に、eコマースや店舗でのショッピングにおいて、消費者が即時に商品を受け取りながら代金を数ヶ月に分けて支払うことができる「分割後払い(Buy Now Pay Later)」サービスを提供するスタートアップです。本社のあるケニアに加え、ウガンダやルワンダ、ナイジェリアにも進出。これまで10ラウンド・1660万ドルの資金調達を行っていました。[1]
現地では、同社の破綻事由は、主に以下と見られています:
- 継続的な資金依存:収益化モデルが脆弱で、次の資金調達ありきの経営だった。
- 甘い財務管理:2023年を最後に新規資金調達ができず、債務やサプライヤー、従業員への支払いが滞っていた。
- 戦略ミス:難しい財務状況の中1.9百万ドルで外部企業(Sky.Garden。資金難に陥っていたケニアのECプラットフォーム)を買収(23年10月)。また、プロダクト・マーケット・フィットが確認されない状態で他国展開を進めていた。
- ガバナンス不全と風評悪化:取締役会による経営改善介入の形跡はなかった。元幹部との知財紛争が発生していたほか、外部業者や元従業員との法的紛争が発生し、風評が悪化していた。
3.アフリカのスタートアップの失敗事例
情報の非対称性の高いアフリカのスタートアップ界隈で、失敗事例の情報収集も容易ではないのですが、例えば、2024 Startup Graveyard Reportでは、2023~24年にかけてアフリカのスタートアップ29社が破綻したとまとめられています(右のボックス参照)。特に、ナイジェリア(16社。54Geneなど)、ケニア(7社。Copia Globalなど)での破綻が目につきます。同レポートによると、2024年に破綻したスタートアップの主要な理由は、①資金調達の失敗(45%)、②product-market fit(45%)、③財務上の困難(18%)、④コンプラ(9%)、④規制(9%)-が挙げられています。
4.失敗の理由とアフリカ投資への教訓
現地のスタートアップ・コミュニティでの議論から浮かび上がってきたアフリカのスタートアップの失敗理由は以下の通りです。それらを踏まえ、今後の投資への教訓を考察してみました。
失敗理由 | 教訓 | |
継続的な資金調達への依存とキャッシュフローの脆弱性 | Funding Winterに耐えられるか | 継続的な資金調達を前提としている場合、資金調達が滞った場合に備え実行可能なPlan Bができているか。キャッシュフロー管理は十分できているか。 |
アフリカ市場の複雑性とフライング | 他国展開は十分準備ができているのか | 規制・インフラ・通貨・国民性など、アフリカ各国の多様性は想像以上。一つの国でうまくいったビジネスモデルが、他の国でうまくいくとは限らない。プロダクト・マーケット・フィットを確認しながらの他国展開ができているか。 |
ハイリスク・スローリターン | 長期戦の覚悟、段階的投資 | インフォーマルセクターを含む低所得消費者を相手にするビジネスモデルは、低購買力・低マージン・ショックへの脆弱性などにより、テイクオフにより長い時間を要する。成果を見つつこまめな段階的フォローオン投資も要検討。 |
一部セクターでの過密な競争 | 競合との差別化 | 差別化ができないビジネスモデルは容易に激しい競合にさらされる。 |
海外VCと現地理解とのギャップ | ローカル投資家の存在 | 国際的なVC投資家は現地のダイナミクスの理解が低い可能性がある。 また、高名な国際VCがリード投資家の場合、他の投資家の審査(DD)が甘くなる傾向も見られる。 |
プロダクト・マーケット・フィットの変化 | 変化への柔軟な対応・pivot | スタートアップにとってプロダクト・マーケット・フィット(PMF)はmoving target。スケールするにつれ変化するPMFに合わせたpivotがどこまで柔軟にできるか。 |
ガバナンスの欠如 | 経営トラブルによる破綻拡大 | 初期段階から監督体制をどう構築できているか。 |
マクロショック、規制リスクの顕在化 | 政策・規制リスクへのレジリエンス | ケニアにおけるデジタル税導入やモバイル送金・決済への物品税の度重なる変更など、政策変更の影響は大きい。こうした変更をどこまで許容できるか。 |
5.終わりに
アフリカのスタートアップ・エコシステムでは、2023年以来、厳しい資金調達環境が続いています。アフリカのスタートアップは、市場による洗礼を受けているとも言え、確立した収益モデル、手堅い経営戦略、ショックへのレジリエンスなどを兼ね備えないスタートアップにとっては、足元をすくわれかねないリスクが拡大していると言えるでしょう。
こうした環境の変化は、投資家とスタートアップとの関係性にも変化をもたらしつつあります。スタートアップの中には、投資家に対し、これまで以上に、メンターシップ・ガバナンス支援・ネットワーク形成という面でのサポートを求める動きが見られてきています。他方、投資家にとっても、これまで以上に慎重な投資判断を迫られるとともに、リスクを低減させるためのハンズオン支援のニーズが拡大しているほか、万一に備えてのリスク分散型のポートフォリオを組んでいく重要性も増しています。
DFPは、日本の事業会社とアフリカのスタートアップとの連携をハンズオンで推進・深化させることで、コーポレート・アクセラレーションを通じたアフリカのスタートアップの成長や事業価値の向上を支援するとともに、そうした企業を投資対象とするファンド組成を通じてのリスク管理にも取り組んでいきます。
株式会社Double Feather Partners 戦略企画・調査部 [info@doublefeather.com]
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[1] 投資家は、Cauris Finance、GreenHouse Capital、Lateral Frontiers VC、Resilience17、SOSV、UNCOVERED FUNDなど。