西アフリカ・フランス語圏で発生した「フィンテック・ショック」(“Francophone Fintech Shock”) 〜アフリカ投資に向けた教訓とは〜 (2025年6月6日)

1.はじめに 

2025年5月、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA/WAEMU)に所属する8か国(右図参照)では、多くのフィンテック事業者が一斉にサービスを停止し、モバイルマネーに依存する小口販売や給与支払いが大きな影響を受ける事態が発生しました(現地報道参照)。西アフリカで一体何が起きているのでしょうか。 

2.背景・経緯 

UEMOA加盟各国は、ユーロにペッグされた共通通貨CFAフラン(XOF)を採用しています。UEMOA域内では、金融政策・紙幣発行・金融監督といった中央銀行機能は、セネガル・ダカールに本部を有す西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)に一元化されています。 
BCEAOは、2024年、域内におけるフィンテックおよび電子マネー事業者に対する規制を大幅に強化しました。消費者保護の強化やマネロンリスクの軽減を目的に、2024年1月に「UEMOAにおける決済サービスに関する指令 第001-01-2024号」を発出し、決済サービスを提供する機関の認可・登録を義務付けました。本指令の対象には、モバイルマネー、送金アプリ、支払いプラットフォームなどのフィンテック事業者も含まれます。認可・登録にあたっては、最低資本金、加盟国内における法人格設立、経営者や主要株主の適格性審査、事業継続計画(BCP)策定、マネロン防止・テロ資金供与対策の遵守、データローカライゼーション、動的二要素認証などの詐欺防止対策の実施や月次報告提供といった要件が規定されました(規制の主な概要はこちらをご参照)。 

3.「Francophone Fintech Shock」 

2024年1月の指令公布後、施行まで当初6か月間の移行期間が設けられました。同期間はその後一旦延長されたものの、BCEAOは2025年3月に「移行期間終了に関する通知 第004-03-2025」を発出し、2025年5月1日以後は延長しない(=新制度に基づき認可を受けない事業者による域内での決済サービスを認めない)旨を表明しました。 
そして迎えた5月。対象地域でサービスを提供してきた大半のフィンテック事業者1のうち、期限内に認可を得られたのはごく一部にとどまり(報道によると5月27日時点で11社2)、認可手続きが間に合わなかった多くのフィンテック事業者がサービス停止を余儀なくされました。この結果、商品・サービス・給与の支払いなど、フィンテック・サービスに大きく依存する個人、スタートアップ企業、小規模事業者、中小企業、Eコマース企業などに大きな影響が発生しました(いわゆる「Francophone Fintech Shock」)。こうした事態を受け、BCEAOは5月27日、移行期間を再び2025年8月31日まで延長しました。しかしながら、この先本件がどうソフトランディングできるのか、不確実性が高い状態となっています。 

4.問題の所在 

一体何が問題だったのでしょうか。今回の規制導入によりBCEAOが目指した「消費者保護やマネロン対策」という方向性自体に問題があるとは思われません。アフリカの他地域でも、2022年にナイジェリアで、2023年にケニアや南アで、フィンテック事業者の規制強化を図られてきました。しかしながら、フィンテック事業者は、組織・体制が堅固な銀行などとは異なり、スタートアップが成長するケースも多く、今回のような包括的な規制を短期間で充足するのは、必ずしも容易ではない場合も多かったのだと思われます。実際、業界団体からは、実施のペースに対する懸念が表明されています。これらの点に鑑みると、検証すべき点としては以下が考えられます: 

  1. 銀行のような大組織からフィンテック・スタートアップのような零細組織まで、同じ規制内容、特に、同じ移行スケジュールとすることが、実態に照らし合わせて適当であったのか。 
  2. 規制の制定から施行にかけて、当局と規制対象事業者との間で、コミュニケーションはしっかりと行われていたのか。
  3. 規制される側にも、「延長が繰り返されるだろう」という甘い見方が浸透していなかったか。

アフリカ投資への教訓 

フィンテックは、アフリカにおけるスタートアップにおいて中心的なセクターです。DFPの調べによると、2024年のスタートアップ投資のうちフィンテックは金額ベースで45%を占めました。それがいわば「規制」により大きな影響を受けたことは、アフリカのスタートアップ投資全体への余波も免れないものと見られます。今回の西アフリカ・フィンテック・ショックを受けて、投資家にとってどのような教訓が得られたのでしょうか。現地での議論も踏まえると、以下のような点が挙げられるかと思われます: 

項目教訓
規制状況の確認 ・「規制遵守」はnon-negotiableなものと認識すべき。非遵守はサービス停止・廃業にもつながりうるリスクと認識し、投資対象業種の規制や認可の取得状況を丁寧に確認する。 
・現時点で遵守している対象国の規制は、周辺国や国際的な規制体系に照らし合わせてどうか。特に、データ保護を含め、今回のBCEAOの規制内容や先進国で施行されている規制枠組みが、他のアフリカ諸国に参照・波及する可能性は十分にあり得ることを念頭置く。 
・規制の新たな制定や強化にあたり、当局と対象事業者とのコミュニケーションは適切に行われているか、事業者は規制当局をエンゲージしているか、についても確認する。 
     組織の対応能力・吸収能力     ・投資対象の経営陣やアドミ・チームが、規制に関する情報収集や、規制遵守やプロアクティブな規制対応ができる意思・能力を有しているかを確認する。 
・フィンテックはスタートアップといえども金融という「規制業種」であり、また国ごとに異なる規制を丁寧に遵守することが求められる。規制遵守には相応のコストがかかるものであり、特にスケールにあたり他国展開を前提としている場合には、複雑な規制対応コストが生じることを前提にビジネスモデルが成立するかを確認する。 
ショック耐性・事業実施にあたっては、規制変更のみならず様々なショックは多かれ少なかれ起こりうるもの。改めて財務的なショック吸収力・耐性の強さを確認する。 
現地事情の情報収集体制・新しい規制導入時には、当局と事業者との間でコンサルテーションが行われることや、様々な情報が現地ベースで共有されることも多い。現地で情報を入手できる体制や、現地で情報を入手できるパートナーとの連携を構築する。

現地では、今回の規制導入に伴い、「当初は混乱するものの、規制に対応できない零細事業者の淘汰が進み、認可を取得したフィンテック業者の魅力が高まり、そこに投資と資本の集約が進み、中長期的には、フィンテック業界の健全な成長につながる可能性もある」というポジティブな見解も投資家間では見られています。他方で、今回の件は、投資家に対し、様々なリスクが実際に発現しうることを前提に、しっかりとデューデリジェンスを行う必要性を、改めてリマインドしているのかもしれません。アフリカを始めとした海外投資を行うにあたっては、①リスクに関する情報収集体制を強化するとともに、②万一に備えてのリスク分散型のポートフォリオを組んでいくことも重要と思われます。DFPは、投資先企業を始めとしたアフリカ現地のネットワークからの情報収集を推進するとともに、アフリカ内におけるポートフォリオ投資を行うファンド組成を通じてのリスク管理にも取り組んでいきます。 

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